魔法の花
「はぁー。」と、始業5分前にも関わらず、私は声が出てしまうほど大きなため息を出してしまった。
それを聞いた隣の席の同期が、「どうしたの?」と訊いてきた。
「いやぁ、家出た時は降ってなかったのに、駅に降りた途端に雨降ってきちゃってさぁ。この革靴買ったばっかりなのに、びちゃびちゃになっちゃった……。」と私は朝から愚痴をこぼしてしまった。
「それは災難だったね……。シミにならないといいけど……。」と同情してくれる同期。
私は、「本当だよー。」と言いながらオフィス用のスリッパに履き替え、見るも無惨な革靴を丁寧に拭き、隅に置いて乾かした。
最悪な1日のスタートだ。
こんな日は良くないことが重なる。
だらしないスリッパを履いている日に限って来客が多かったり、午前中に処理する書類が大量にあったのでランチを買いに行くのが遅くなってしまい、お弁当屋さんはどこも売り切れになっていたりと、散々だった。
些細なことでしかないけれど、ちょっとずつ疲弊しているのが自分でもわかる。
こんなことで落ち込むなんで、私は弱い人間なのかな、なんて考えてしまう。
でも仕事はそんなことお構いなしに降りかかってくる。
私はしにものぐるいで、なんとか今日の仕事を終わらせることができた。
あぁ、なんだかエネルギーが空になってしまったようだ。
こんな枯れてしまいそうな日は、あそこに行こう。
時間は19時を過ぎたところだ。まだ間に合うかもしれない。
「ただいまー。」
誰もいないワンルームに向かって言う。返事がないことにはもう慣れっこだ。
そんなことよりも今はこれだ。私は、抱えていたチューリップの花束を、清潔な花瓶に生けた。
その華やかで賑やかな姿を見ているだけで、空になったエネルギーが満ちてくるのを感じる。
エネルギーが空になったら行くところ。それは花屋さんだ。
sunday flower。このお気に入りのお花屋さんで花を買うと、まるで日曜日が訪れたかのように活力が湧いてくる。
あまりにもチューリップが綺麗だったから、お会計の時、
「やっぱり、お花のお世話をしていると、自分も元気になったような気がしますよね。」
なんて恥ずかしいことを店員さんに言ってしまった。
でも、私にとって魔法のような存在である花のことを、このお店の人ならわかってくれる。そんな気がしてしまったのだ。
そしてまた新しい一日が始まる。
カーテンを開けると外は晴れていた。
日差しを浴びたチューリップは、昨晩よりも輝いて見える。
「行ってきます。」そうチューリップに言うと、
「行ってらっしゃい」と言っているような気がした。
私は、少し味が出たお気に入りの革靴を履いて玄関を開ける。
靴はすっかり乾いていた。
店長メモ
そう思っている方は結構多いのではないでしょうか。
衣食住のように生活必需品というわけではありませんが、お部屋に飾るだけできっと毎日が一層素敵になりますよ。
sunday flowerは、夜8時まで営業しています。
仕事帰りに、頑張った自分へのご褒美としてお花を買ってみませんか?